それ以外の方法を僕は知らない


― 克真side ―




約1年間、お世話になった国語科準備室。

具体的な曜日は決めていなかったけれど、一時期は毎日のように通っては先生に話を聞いてもらっていた。




最近、先生の声が聞き取りずらくなった。
耳鳴りが酷くなった。


先生がいつか誰かと結婚して俺のそばからいなくなることは想定の範囲内だったはずなのに、その"いつか"がまだ来ないことを願って、俺は甘えていたんだ。



いつか、いつか。

そのいつかは、まだ来ない。




耳が聴こえなくなることへの恐怖と、先生がいなくなることの恐怖。

いつか終わりが来ることから目を背けてはいけないことはちゃんとわかっていたはずだったのに。



「…先生、ありがとう」

「はは、まだ早いよ。もしかして離任式には来ないおつもりですか?」

「……行く、気ではいます」

「まあ、強制じゃないものね。下館くんの好きにしなさいな」

「…ありがとうございます」

「ふ。いいえ、こちらこそ」




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