どうして・・
···もう、遅い
テアは、孫娘の彩羽が
可愛くてたまらなかった。
正直、川本?と言う人に会った事は
なかったが、この結婚には、
いささか気乗りなしていなかった。
だから、大事な彩羽の式にも
出向く気持ちにならなかった。
クラインの資産を管理させている
弁護士の怜にも少し調べさせた。
実は、山寺 律も怜が連れてきたのだ。
だが、偶然にも彩羽と付き合っていたと
聞いて驚いた。
それから律は、
定期的にドイツに足を伸ばして
ここへときていた。
当時の·····律は····
仕事が楽しくて
たまらなかった····
一級建築士として
引っ張りだこで有頂天になっていた···と。
賞も沢山頂いて
何もかも楽しくて
クアラ・ルンプルの
建物を任されて······
それしか頭になかった·····と言った。
彩羽の事も好きだったが
まだまだ、仕事がやりたくて
転勤を気に別れた
と、言い
別れた当初は、
気持ちも楽になり煩わしさから
解放されたように感じていた
と、言った。
私は、
正直、こんな男なら別れて良かった。
と、心の中で思いながら
律の話の続きを聞いていた。
だが律は、苦しそうに······
転勤して
一年位は良かったが
段々とアイデアが沸いてこなくなって
何をしても頭の中は真っ白
何もやる気も起こらず
家に閉じ籠り
部屋の中も悲惨な状態に
なっているが
どうでも良いと思うようになっていた
その時、先輩建築士に
連絡を貰い日本へ一時帰国した、と
先輩は、俺の姿を見て一言
「悲惨だな、お前。」
と、言い
何も言い返せない俺に先輩は
「有頂天になっているから
何もかも失くすんだ。
お前、大事にしていた
彼女も捨てたらしいな?」
と、呆れ顔で言われ
くそっ、と思うが·····
「だがな····
俺も、そうだったんだよ。
だから、もしかして
お前もじゃないかと。
違ったら、それで良いと
思い、いや、大丈夫であって欲しいと
願いながら····連絡したら····
お前の声でわかった
だから、呼んだんだ。」
と、言われて
先輩の顔を見ると
心配そうな顔をしながら
苦笑いをしていた。
先輩の顔を見て
俺は、恥も外聞もなく泣きました。
恥ずかしい話しですが
泣き止むまでかなりの時間が
かかりました。
先輩にお礼を言って
その足で会社に向かい
影から彩羽をしばらく見ていました。
彩羽は、気づいては
いませんでしたが。
てきぱきと仕事をする彩羽に
俺は·····
何をやっていたんだ·····と。
あんなに大事にして
大事にされていたのに·····と。
先輩に感謝しながら
クアラ・ルンプルに戻り
一からやり直しを試みました。
俺は、やっと気づいたのです。
彩羽が居てくれたから
いつも温かく見守ってくれて
いたから自由にできて
色んなアイデアが生まれていたんだと
わかったのだと言いながら
肩を落す律に······
「自分で彩羽を切っておいて
ずいぶん勝手だな。」
と、言う私に律は
「返す言葉もありません。」と。
「まぁ、良い。
だが、律、もう、遅い。
彩羽は、結婚するぞ。
まもなく。」
と、言うと
かなり驚いた顔をした後
律は、うちひしがれて
帰っていった。
もう少し····早ければ·····
と、律の後姿に
私も辛い気持ちになった。