どうして・・
じゅうご
···見て欲しい
律がおばあちゃまの家へと
引っ越してきてから五ヶ月が過ぎた。
その間に律の顔をみかけたのは
一、二度。
それもチラリとだけ。
あんなに言っていたのに
なんのリアクションもない事に
ガッカリしている自分に呆れる
あなたは、前に捨てられたのに
まだ、彼を信じようと思っているの?
と、私の中から声が聞こえる。
もう、こりごりでしょ···男性は····
そんな日曜日の朝
温室からピアノの音が聴こえてきた。
そっと、温室のドアを開くと
律がピアノを弾いていた
えっ、律·····
律がピアノを弾く?なんて·····
まったく知らなかった。
律は、私に気づいて
おいでと手招きをするから
ピアノの側に行くと
「おはよう。彩羽。」
「おはよう。律····」
「うん、ピアノ弾くんだよ。
彩羽みたいに上手ではないけど。」
と、言うから首をふると
「一緒に弾いて」
と、言われて
椅子に半分ずつ座り
いつも彩羽が弾く曲を
お互いになにも言わずに弾き始め
彩羽は、びっくりして律を見ると
律は、嬉しそうに微笑んだ。
彩羽は、恥ずかしい気持ちを隠し
ピアノに集中したが
律は彩羽の邪魔しないように
所々を奏でるだけに止めた。
彩羽が弾き終わると
律は、
「ありがとう。」
と、言ったが彩羽は恥ずかしさから
「律、ピアノ弾けたの?」
「うん。小さいときから高校位まで
習っていた。
彩羽には、全然かなわないけど。」
と、言う律に
「そんなことない。
凄く、上手でびっくりした。」
「良かった。
彩羽に俺の事をまた知って貰えて。」
と、言うと彩羽は
「前は、私に見せてくれてなかったんだ。
やっぱり律は、私に本気では、
なかったんだ····よ··ね。」
と、悲しげに話す彩羽に律は
「彩羽。何を言っても
今は、信じて貰えないかも
知れないけど。
あの時も決して彩羽の事を
愛してなかったわけじゃない。
それははっきり言える。
ただ、バカな俺は
仕事に集中して出来るのは、
彩羽がそばにいてくれているから
と、言う事が·····
わかってなかったんだ。
ごめんね。
沢山辛い思いしたよね。
本当にごめん。」
と、詫びる律に
彩羽は、何度も首を横にふった。
「彩羽。
ドイツでの依頼が完成したんだ。
見てくれる?」
と、言うと
彩羽が頷いたから
律は、彩羽を自分の部屋に
連れて行った。
初めて入る律の部屋は
沢山の書物と洋服と·····
テーブルの上に
建物の模型が······
ドイツの街並みの中に
溶け込みながら
日本の良さが目立たずに
だけど良い形で表現されていた。
日本人の方が
レストランを開くのに
律に依頼したきたのだ。
まだ、建物自体は建設中だが
模型は、その辺りの街並み全てが
作られていた。
私が、覗きこんで見いってると
「彩羽に見てほしくて
持って帰ってきたんだ。」
と、律。
「大丈夫だったの?」
と、言いながら
彩羽は模型から目を離さない·····
そんは彩羽を見ながら
律は、クスクス笑っていた。
彩羽は、ハッと
律を見ると
律は、嬉しそうに彩羽を見ていて
彩羽は、恥ずかしそうに
頬を染めた。
「ドイツで初めて手掛けた
デザインを彩羽に一番に見て欲しかった。
設計図は、依頼者に見せて
設計を始めているけど
模型は、彩羽に見てほしくて
作ったんだ。
この依頼をきちんとやって
模型を彩羽に見てもらってからじゃないと
先には進めないと思って
必死にやったんだ。」
と、律は、彩羽に言った。
彩羽は、律の気持ちに
胸が温かくなるのを感じた。