お前がいれば、それでいい
どこへ、行けばいいんだろう
先程帰る家を無くした私は、
【眠らない街】を前にして座り込んでいた
こんな所で、こんな格好で。
座り込んだ私を視界に入れたであろう人達は、見て見ぬふりをし、さほど興味も無いよう
対して珍しくもない、とでも言うように
·····折角“自由”になったのに
風呂掃除をしろ、飯を作れ、洗濯しろ
····汚い、不味い、雑だ
そんなことを言われていたせいかつから逃げ出したんだ
私は、“不自由”から逃げた、いや····逃がされた
でも·····“自由”に捕まった
命令ではなく、自分の意思で行動する世界
それは命令で動いてきた私にとっては“苦”で。
何をすればいいのかも、分からない
自由は、本当に自由なのか
そんなひねくれた事しか頭に浮かんでこない私は、もう末期なのか
···このまま死ぬか
でも、その前にーーーーーー
一つだけ、やりたいことがある
私は、手に握った、紙切れを見る
そこに印刷された顔は、【1万円札】の象徴だった
“アノ人”に家を出ていく時に貰ったものだ
何を考えていたのかは知らない
でも、初めて····【この人という存在】について考えた
外で何をしているのか、人に好かれているのか、知らないことだらけだ
アノ人が居ることで、誰かが救われたりしているのか
なぜ【この人と言う存在】について考えたのかは説明できない
いきなり、頭に入ってきたのだから
最後にーーーーーそう、死ぬ前にーーーーー。
私には、やりたい《賭け》が存在した
死ぬ前に、って言っても、《賭け》が成功したら死んでしまうんだけどね
····私を、殺してくれる人は居るのか
それが、最初で最後の賭けだった
誰にも迷惑をかけずに死にたいと、そういう気持ちもある
でも、ーーーと約束したんだ
「命は自分から絶ってはダメなの。それは、私に対しても、お父さんに対しても、神様に対しても、裏切ったことになるから」
ーーーとの約束だけは守りたかった
まあ、殺してくださいって言うのも自殺に近いけど
少しでも、自分が楽に死にたかった
自分勝手でもなんでもいい
何度でも謝ってやる
でも、死にたいけど死にたくない。
こんな気持ちを楽にしてくれるのはーーー他殺、だけ
この1万円ーーーーーーん?
これは?
足元に落ちていた、紙切れを見つめる
こ、ぎって?
······聞いたことある
お金の、代わりだ
ど、しよっか
いくらなんでもこれを使う訳には行かない
でも、交番に持っていったら私が保護されてしまうかもしれない
別に保護されたくないと言う訳では無い
義務的に護られたくないんだ
警察は、所詮義務をこなしているだけだ
色んな人を心配して、助けて、護って
偏見かもしれない
でも、私はそう思う
だから嫌なんだ
どうしようか悩んでいた、その時だった
「オネーチャン。何してるの?」
金髪の、チャラチャラした男の人が話しかけてきたのは
なんだ、この人
後ろには同じ髪色の人が2人
つまり、合わせて3人だ
「オネーチャン、いいことしねぇ?」
いいこと?なんの事だろ
「おい、こいつ1万円と小切手持ってんぜ」
「え!?まじか!」
「ん〜、お金も容姿も胸も申し分無いんだけど、服装と···あと、痩せすぎかな?」
おかね、胸···
何この人
その小切手私のじゃないし、初対面の人に胸だなんて言われたくない
「なんか言ってよ〜ねぇ?」
そんな事言われても···
いつからだっただろうか
声が出なくなったのは
打ち込むのも面倒なので、首を横に振る
「はぁ?何とか言えっつってんだよ!!」
ッ!!!
怖、い
やめて、ごめんなさい
許して、何でもするから
お願いします、助けて
今回だけでいいから
そんな言葉が、頭を駆け巡る
ッ!!!
アタマが、痛い
ッ、ッ!!
フッ
身体から力が抜けた、気がした
そうして私は、ゆっくり意識を手放した