お前がいれば、それでいい
あなたは···?
そう聞きたいが、声が出ない
スマホ、スマホ····あ、あった
ベッド脇にある台の上に黒いスマホを見つけた
急いで開き、文字を打ち込む
《あなたは、誰ですか?》
文字を打ち終わり、機械音声でそれを読ませると、男の人は、怪訝な顔をした
「声、出ねぇのか?」
《はい》
打ち込み、読ませる
「何故か···言えるか?」
····家での出来事はまだ言えない
拒絶されるのが、怖いんだ
《心因性発声障害というもので、ストレスにより声が出なくなったと聞いています》
打ち込み、読ませる
その、繰り返し
その言葉を聞いた男の人は、安心したような、誰かを憎むような、悲しむような。
そんな、顔をした
「······つまり、声は出せるようになる可能性がある、と」
···まぁ、そういうことかな?
私が頷くと、男の人は、頬を緩ませてこう言った
「お前、ここに住め」
ん?え?は?
《どういうことです?》
「帰る家、あんのか?」
帰る、家·····
《ありませんけど、でも「ならいい。名前、教えてくれないか?」ですし···》
機械音声が流れている途中、男の人はその音を遮った
しかし人間ではないから打ち込んだ言葉を全部読み終わるまでは自然に止まらない
男の人が言い終わって、機械音声がストップしてから、男の人はもう一度言った
《名前、教えてくれないか?》
と。
······名前
強制的に決められたのは癪だけど、名前ぐらいは聞かれた通り答えたかった
やっぱり、家出る時に聞いとけばよかった
《すみません····分からなくて····》
その言葉で男の人は眉間にシワを増やした
不愉快、だったよね····
「お前の名前は、霧雨 雨美だ。戸籍にあった」
キリサメ、ウミ····
私の、名前····
やっと名前が分かったんだ···!
て言うか、戸籍、あったんだ······
ん?
《なんで知ってるんですか?》
前々から調べていたような感じがする
しかも知ってたなら聞く意味は?
よく良く考えればなんでここにいるのかもわかんない
あぁ、わかんないことだらけだ