小学校で初彼に再会しました
「翔! 私にも出来ることがあれば、言って! なんでもするから」

私が後ろから叫ぶと、翔は少しペースを落として振り返った。

「来なくていい! だから、舞花は戻って子供たちを頼む。みんな不安がってるはずだから!」

それだけ言うと、翔は、また全力で駆け出す。

相変わらず、早いなぁ。

私は、翔を見送ると、そのまま体育館に戻った。



「舞花先生!」

体育館に入ると、すぐに美優ちゃんが駆け寄ってきた。

「川の水があふれたの? おうちも体育館も沈んじゃうの?」

美優ちゃんの他にも数人の子供たちが私の返事を待っている。中には、私の教え子でない他の保育園出身の子も混ざっている。

「大丈夫よ。今、翔……森川先生が行ってくれたでしょ? 学校にはお水が入らないよう頑張ってくれてるから。それに、みんなこの体育館に入るのに、階段を上ったでしょ? それだけ、他のところより高くなってるから、ここまではお水も来ないはず。さぁ、みんな、おうちの人の所へ戻って、朝まで少し眠ろう! 朝になったら、みんなでお片付けのお手伝いしようね」

「うん!」

美優ちゃんが元気よく返事をすると、みんな散り散りに家の人がいる所へ戻っていく。

 けれど、私も含め、大人たちは簡単に眠ることは出来ない。まんじりともしないまま、時間だけが過ぎていく。

翔、大丈夫かな。
外で作業して、流されたり、けがをしたりしてないかな。

しても仕方ないとは分かっていても、心配の種は、後を尽きない。



 深夜2時。私は、そっと体育館を出て、昇降口に向かった。今さら、私に出来ることなんて、何もないかもしれない。それでも、何か翔の力になれれば……

 途中通りがかった職員室は、薄暗いものの、点々と灯りが点いていて机に突っ伏して寝ている先生や、椅子を3個並べて寝ている先生などの姿が見えた。けれど、その中に翔の姿は見つけられない。

もしかして、帰ったのかな?
でも、こんな雨の中を?

私は、疑問に思いながらも、何となくそのまま昇降口まで進んでみた。さっきの放送では、昇降口集合って言ってたから。何か作業があるとすれば、昇降口付近のような気がして。

 昇降口まで来ると、常夜灯に照らされた出入り口にきっちりと積まれた土嚢袋が見える。きっと、消防の方たちと一緒に職員総出で、この作業をしてたんだ。


 その時。

トン!と微かに音がした。

何?

普段は入ることのない、夜の小学校。わけもなく、恐怖心が芽生えてくる。決してトイレの花子さんとかを信じてるわけじゃない。それでも、所々にしか灯りの点いていない薄暗い小学校は、どことなく薄気味悪く感じてしまう。
< 4 / 7 >

この作品をシェア

pagetop