小学校で初彼に再会しました
 私は、足音を立てないように、そっと靴箱と靴箱の間の通路をひとつひとつ覗いてみる。『3年』と書かれた靴箱の陰から顔を覗かせると、そこにうずくまる人影を見つけた。

「翔!」

「ぅわっ‼︎ びっくりしたぁ! なんだ、舞花かぁ」

翔は、心底驚いた様子で、尻もちを突いた。

「何してるの? こんな所で、たった1人で」

立ち上がった翔が手にしてるのは、子供の上靴。

「もし、浸水したら、泥水に浸かってもう使えなくなるだろ? 下の方の段だけでも、上に上げてやろうと思って」

見ると、靴箱の上段に、上靴がずらりと並んでいる。

「ふふっ。翔らしい。私も手伝うよ」

そう言って、私は、翔の隣にしゃがみ込んだ。

「えっ、いいよ。舞花も疲れただろ。寝て来いよ」

翔はそう言うけれど。

「ううん。全然、眠れないの。あ、でも、子供たちはみんな眠ってたよ。早朝から騒ぎそうだけど」

私が苦笑いすると、翔も笑った。

「だろうな。普段、起きられないやつも、こういう時だけは、なぜか起きるんだよな」

私たちは、並んで上靴を下から上へと上げていく。



「……舞花が、この近くに住んでるなんて、知らなかったよ」

ぼそっと翔が呟いた。

「私だって、翔が小学校の先生をやってるなんて知らなかったよ。中学の先生になるって言ってなかった?」

中学の先生になりたいと言って、翔は遠く離れた大学に進学して、私たちは別れた。お互いに遠距離は無理だと思って。

「最初の6年は中学だったよ。今年、異動でここに来たんだ」

「そっか」

「舞花は?」

「私?」

私が保育士を目指して地元の大学に進学したことは、翔も知ってるじゃない。何を聞きたいの?

「結婚……した?」

「えっ?」

思ってもいない問いに驚いた私は、思わず手を止めて、隣の翔をまじまじと見つめてしまった。

「ごめん。変なこと聞いた」

翔は、私を一瞬見た後、そのまま何事もなかったかのように、また上靴を下から上へと上げていく。

「翔?」

「いいんだ。俺たち、もう28だし、舞花ならいい嫁さんになってるのが当たり前だし。忘れて」

翔は1人で勝手に納得して、私の話を聞こうともしない。

「翔! 聞いて! そうやって、いつも先回りして私の気持ちを決めつけないで」

私が、少し声を荒げると、翔は驚いたように顔を上げた。
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