ニセモノの白い椿【完結】

「……こんなはずじゃなかったんだ。初めて会った時は、ただ、凛として綺麗な人だなって少し印象に残った。その程度だったよ」

木村がぼつりぽつりと言葉を吐き出し始めた。

「でも、その後、たまたま見かけたんだ。道の真ん中で一組の男女の前に彼女が一人で立っててさ。それが一体どんな状況なのかなんて分かりようもなかったけど、どうしてだろうな、目が離せなかった。その背中がさ、ホント、ぴんとしててさ。それが余計に、精一杯強がっているように見えて。よく分からないけど、目に焼き付いて離れなかった」

あの日のこと――。
木村と初めて会った日のことだ。あの場面を見ていたと、木村が言っていた。
あの時の私を、そんな風に見ていたんだ――。

「その後に、それは、彼女にとって最低最悪の出来事だったと知って。酷い目にあって傷付いて、暴言吐きながら泣く彼女を、放っておけなくなった」

それは、どこかひとり言のように。木村は思い出すように言葉にしている。

「人の前では、強がって完璧な姿を崩さない。そんな彼女の奥底にある深くて大きい傷を、少しでもなくせたらってさ。ああいう、他人に弱さを見せられない人間っていうのは、一人で傷をこじらせて大きくしていく。甘えることがいけないことだと思ってしまうんだよ。
だから、分からせてやりたかった。
弱さを見せてもいいってこと。素の姿でも、誰かに受け入れてもらえるんだってこと……。
そう思えるようになってくれれば、それでいいって思ってた」

そうやって、木村は私の傍にいてくれた。
そんな風に、木村は――。

「とにかく、立ち直って、前を向けるようになれば。それで満足だった」

木村と過ごした日々の中で、私に言ってくれた言葉一つ一つが、次から次へと脳裏に浮かび上がる。

友人としてくれていたとばかり思っていた。全部、友人として――。

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