ニセモノの白い椿【完結】
「あの人さ、見た目からじゃ分からないかもしれなけど、中身、悪魔みたいなんだよ。酒癖悪いし口悪いし。大人みたいに振舞ってくるせに、時おり凄い子供みたいなこと言うし。自信ありそうに見えて、本当は誰よりも自分に自信なくて。そんな彼女を可愛いと思ったよ……」
”ありのままの生田さんを見て、可愛いと思う男は、絶対にいる”
そう言って笑っていた。
バカじゃないの。ホント、バカみたい。
「一緒に過ごして、毎日が楽しかった。
でも、過ごせば過ごすほど、最初は抑えきれていた感情が抑えきれなくなって。
友人という立場を演じきらなければならないと思うのに、俺のものにしてしまいたいって気持ちが溢れて。もう少しで俺は、彼女を――」
苦しいという感情をそのまま剥き出しにした声に、胸が締め付けられて息苦しい。
「気付いたら、どうしようもなくなってた」
木村の思いを知り、勝手に溢れ出す涙に口元を押さえた。
「――そんなの、当たり前だ。おまえは、会った日から惹かれ始めていたんだ。そんな女と一緒に暮らせば、気持ちも大きくなる。友人なんて立場で満足できなくなる。手に入れたくなる。それが、普通だ」
言葉を挟まずに黙っていた榊さんが、どこか慰めるような口調でそう言った。
「偽りの感情で築いた関係は、必ずいつか限界が来る。それが、今なんだろ。おまえの気持ちを正直に伝えろよ」
「そんなこと、できるはずがないだろ!」
その声が私の胸を引き裂くみたいに響く。
「どうしてだ? 見合いまで断ったんだろ。その覚悟があってのことなんじゃないのか?」
「見合いを断ったのは、そういうことじゃない。俺、生田さんに言ったんだ。あの人が幸せになるまで見守るって。彼女が俺の家にいる間は、彼女がちゃんと笑えるようになるまでは、結婚なんかしない――」
どうして、そんな――。
「バカじゃねーか? それほどに想っているなら、何が何でも手に入れろ!」
先ほどまでの労わるような慰めるような声が一変する。
でも、それに怯むことなく、少しの間もなく木村の声が聞こえて来た。
「俺はおまえとは違う。自分の感情だけで突っ走れるほど子供じゃないんだ。自分の感情なんてどうでもいい。何が最善か。それを考えるのが大人だろ」
「それはまた随分と中途半端な大人だな。おまえが本当に大人としての行動をするのなら、一緒に暮らしたりするべきじゃなかった。深入りする前に距離を置く。それが、大人のすることだろ。違うか?」
今度は、木村の答えは返って来なかった。
「……分かってるよ。いつものおまえなら、一緒に暮らすなんてそんな選択、絶対にしなかったはずだ。でも、そうしてしまったのは、生田さんだったから。彼女だったから。
理屈で行動できなかった。好きな女なら、その気持ちが大きいほど、近くにいたいという本能には抗えねーだろ」
その声は、まるで木村という人間を包み込むみたいに聞こえた。