ニセモノの白い椿【完結】

「……なんで、この年になって、また人なんか好きになっちまったのかな。そんなの大昔に懲りてたのに。ホント、どうしようもねーわ。おまえたち二人を見て、血迷ったかな」

カラカラに乾いた笑い声は、哀しみしか引き出さない。

「それだけ本気だということだ。いい加減、一番望んでいることに逆らうのはやめろ」

「――できねーよ。俺が彼女を手に入れるわけにはいかない」

「家のことか? 確かに、簡単にはいかないだろう。でも、立ち向かえよ。誠心誠意説得すれば――」

「立ち向かう? それで傷付くのは誰だ。俺じゃねーよ。彼女だ。
俺の両親をおまえも知ってるだろ。超がつくほどの頭の固い連中だ。
自分たちの常識が世の中の道理だと思ってる。”離婚”なんて単語聞いただけで、その裏にある事情も考えずに蔑んだ目を向ける奴らだよ。彼女は、ただでさえ辛い目にあって傷付いてきた。これ以上辛い思いなんてする必要ない。もう十分だ。この先の人生で、苦労する必要なんてないんだよ」

もう、いいよ。
もう、いい――。

さっきから溢れ続ける涙が私の心をかき乱す。
どうしようもなく、苦しくて。
初めて知るその想いすべてに、嬉しさより苦しさが勝る。

「彼女を幸せにできるのは、俺じゃない」

身を隠していた壁を滑るようにしてしゃがみ込む。
嗚咽が漏れないように必死で。
力の限り両手で口元を押えた。
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