ニセモノの白い椿【完結】
「――彼女はの気持ちは? 生田さんの気持ちはどうなんだ」
静かに榊さんが言った。
「……幸い、俺のことは友人だと思ってる。それで良かったと思ってるよ」
私もずっと、木村は本当に友人として私に接しているのだと思っていた。
お互い、同じことを考えていたのだ。
「おまえ、他人のことはムカツクくらいに察するくせに、自分のことになるとまるでダメなんだな。もし彼女が、おまえのことを想っていたとしたらどうする。同じことが言えるのか?」
「万が一そうだったとしても、俺の考えは変わらない。愛さえあれば乗り越えられるなんて、そんなに現実は甘くない。それは、おまえが一番良く分かっているだろ。無理な結婚をして、雪野ちゃんはどうなった? しなくていい苦労をして、傷付いたはずだ。
おまえは、愛している女が自分のせいで辛い目に遭っているのを見て、なんとも思わなかったか?」
木村の根底にある、強い信念。おそらく、揺らがないもの。
「苦しかったよ。自分を責めもした。でも、それでも絶対に手放せない。愛しているからな。離れるなんて選択肢は俺にはない。それは俺のわがままだろう。でも、そのわがままを通すために、俺はできることをやるまでだ」
きっと、それが榊さんの愛し方なんだ。
「俺は、生田さんに想いを告げるつもりはない。それが、俺の愛し方だ」
さっきから震え続けている私の胸を、木村の言葉が貫く。それが、彼の答えだ。
「だったら。さっさと離れろ。離れることも出来ない。それでいて手に入れることも出来ない。そうやって自分に嘘ついて苦しんで、しまいには耐えられなくなって。こんなところで酔いつぶれてるのは、どこのどいつだ!」
もう、やめて――。
木村の苦しみに、溺れてしまいそうで。
これ以上、もう聞いていられなかった。
ふらつく足を懸命に立たせ、その場から逃げるように立ち去る。
何も知らなくて、知らずにいてごめん。
ずっと、苦しませていて、ごめん――。