ニセモノの白い椿【完結】
episode5 ニセモノにはニセモノのプライドがある
この日は、朝から死ぬほど暑い。
それも無理はない。カレンダーは8月に変わり、夏本番だ。
夏の陽射しがさんさんと降り注ぐ表参道のカフェで、そんな暑さなんて関係なしのアツアツラブラブカップルが私の目の前にいる。
「――で。二人揃って、私に報告したいこととは?」
本当は聞くまでもないのだけれど、仕方なくこちらから話を振ってやることにした。
「まあ、他でもない俺たちのことなんだけど」
当たり前だろ。この面子でこの状況で、全然関係ない人の話のはずがあるか。
実家では笑顔の一つも見せない、生まれながらの無表情男、弟の眞がその顔を気持ち悪いほどにニヤニヤとさせながら口を開く。
「俺たち、結婚することにした。姉貴には、いろいろ迷惑かけたというか世話になったから、いちおうきちんと報告しようと思って。と言っても、そうしたいと言ったのは沙都だけど」
「どうしても、お姉さんにはちゃんと報告したくて。お姉さんがいなかったら、私たち今、こうしていられなかったはずだから」
久しぶりに会う沙都ちゃんは、以前にも増してきらきらと綺麗な笑みを浮かべていた。
せっかく笑うとかわいいのに、その笑顔をストレートに出すことを躊躇って。
わざと、がさつに笑ったりする子だったけれど、今の彼女は違う。
自然にふんわりと笑うようになった。
「いつかないつかなって、ずっと待っていたから。二人がそうなってくれて嬉しいよ。おめでとう」
眞はニューヨーク、沙都ちゃんは東京。かなりの遠距離恋愛だから、いつその報告が聞けるのかと待ち望んでいた。
眞は沙都ちゃんにベタ惚れだから、もう離れていることに耐えられなくなってねをあげたか。
「昨日、沙都の実家に行って挨拶も済ませて来た。快く許してもらえてホッとした」
眞の言葉に、不意にじんと来る。
「なになに。”お嬢さんをください”的なこと言って来たの? でも、許してもらえてよかったね」
「はい。父も母も、大喜びでした」
そう沙都ちゃんが答えると、眞と沙都ちゃん二人して見つめ合う。
幸せは、どうしたって隠し切れない。これまで見て来たどの表情よりも、沙都ちゃんの笑顔は美しかった。
やっぱり、結婚は祝福されてするものだよね――。
それが何よりだ。
二人の幸せそうな笑顔を見て、改めてそう思う。
だから。この選択は間違っていなかったと、自信をもてる。