ニセモノの白い椿【完結】
木村の想いを知ってから、5日ほどが経った。
その間に新しい部屋の契約を済ませていた。
本気になれば、部屋なんてすぐに決められるのだ。
少しでも木村と一緒に過ごしたくて8月中旬まではお世話になりたいなんて考えていたけれど、そうすべきではないと思ったのだ。
これ以上、木村を苦しませたくない。
苦悩させてはいけない。私たちはこれ以上一緒にいちゃいけない――。
木村の将来にとってなんのメリットもないごくごくフツーの一般家庭の生まれ。それだけでなく、バツイチ。
私は木村の相手にはふさわしくない。それは変えようのない事実。
私も、木村と結婚したいだなんて大それたこと、考えたこともない。
木村は、いつかはきちんと結婚して家庭を築く。そうすべきで、そう出来る人だ。
誰からも祝福してもらえる人とちゃんと幸せになってほしいと思う。
そのためには、私たちは一緒にいてはいけない。
”彼女が俺の家にいる間は、彼女がちゃんと笑えるようになるまでは、結婚なんかしない”
そう言ってくれた木村の言葉には、彼の想いのすべてが込められていると思う。
私が木村のためにしてあげられることは――。
それは、一つしかない。
私は、木村よりも年上で。私からしてあげなくてはいけないことだと思う。
最後くらいは、お姉さんぶってみましょうか。
「だいたい姉貴は、いきなり東京なんかに出て来て、ちゃんとやってるのか?」
「うるさいわね。ちゃんとやってます。あんたに心配してもらうほど落ちぶれちゃいませんよ」
幸せいっぱいの人間から受ける心配ほど、不愉快なものはない。
「沙都も、もうすぐで東京からいなくなるんだから。頼れる人もいない。いい年して親に心配かけるなよ」
そうなのだ。沙都ちゃんは、勤めていたお役所を辞めて、眞のいるニューヨークに行くらしい。まあ、結婚するのだから当然か。
「それにしても、仕事辞めるなんて沙都ちゃん思い切ったね。きちんとした仕事だったのに」
「はい。でも、迷いはありませんでした。自分の心の声に従った。それだけなんです」
そうはっきりと言い切ることのできる沙都ちゃんは、清々しさに溢れていた。
「そうだね。結局、女だろうが男だろうが関係ない。自分で決める。それが大事なのかもしれない。誰かのためじゃなくて自分の意思で決めたことには、責任持てるもの」
そんな彼女をかっこいいと思った。