ニセモノの白い椿【完結】
「夏季休暇、いちおう、ニューヨークに来られるようにしておいて。そこで、式を挙げられたらと思ってる」
沙都ちゃんがトイレで席を外している時に、眞が打ち明けて来た。
「”いちおう”って何よ。そういうのって、決まっているものなんじゃないの?」
おかしな言い方をする奴だな。訝しげに眞を見る。
「まだ、沙都には言っていない。ただ、俺の計画というか願望といか。沙都にはこれから説得する。っていうか、絶対そうするようにするつもりだ。だから、とにかくあけておいてくれ」
「はいはい、分かりましたよ」
まあーー沙都ちゃんを一刻も早く捕まえてしまいたくて眞一人が焦っている。そんなところだろう。
この男、どんなことにも動じないし興味もないのに、彼女のことになると途端に人格が変わる。
「決まり次第、すぐに連絡する」
ニューヨーク旅行か――。
いい気晴らしになりそうだ。
それから、ラブラブアツアツカップルと別れた。
「姉貴も、早くいい人を見つけろよ」という余計な一言と共に。
「うるさいわっ! 幸せ者は黙ってな」
まだまだ陽射しが弱まる気配のない空の下を、家路につく。
あと一日で帰る場所じゃなくなるところへ。
この日、用事があると言って出掛けて行った木村に、夕飯どきには帰って来てほしいと頼んである。
早く帰って、支度をしないとーー。
そう思っていると、どこからか私を呼ぶ声が聞こえた。