ニセモノの白い椿【完結】
「……生田さんですか?」
「え……?」
その声に振り返ると、振り返った先に雪野さんが立っていた。
その隣には――榊さんもいる。
日曜の昼下がり、二人で買い物でもしていたのだろうか。
「榊さんに雪野さん、こんにちは」
「こんにちは」
私一人、緊張が走る。ほんの数日前、こちらが勝手に見かけただけなんだけれど。
あんな会話を聞いたばかりだから、どんな顔をして見ればいいのか分からなくなる。
「これから、お帰りですか?」
柔らかな声と笑顔で雪野さんが問いかけて来た。
「はい。弟と久しぶりに会って。その帰りなんです」
雪野さんの隣に立つ長身の人をどうしても直視することが出来ない。
「じゃーー」
「あ、あのっ! せっかくですから、もしお時間あったら少しお茶でもしませんか?」
これ以上榊さんといるのもいたたまれないので立ち去ろうとしたら、私の声に被せてくるほどの勢いで雪野さんが声を上げた。
「えっ?」
「お、おい、雪野」
私と榊さんで驚く。でも、雪野さんは強い眼差しで私を見て来た。
「ご都合、悪いですか?」
彼女らしからぬ押しの強さに不思議に思う。
「あ、えっと……じゃあ、少しなら」
あまりに必死な雪野さんの様子に、つい頷いてしまった。
いちおう腕時計を見てみる。
あと、一時間くらいなら、大丈夫かな――。
マンションに戻って料理を作る時間を逆算した。