ニセモノの白い椿【完結】
休日の表参道なんて人で溢れかえっているから、すぐに座れる店を探すのも一苦労かと思ったら、なんなく座れる店を案内された。
さすがは、住人だ。
路地裏の少し奥まった場所にある、雰囲気のよいカフェだった。
「えっと……。そう、弟さん! 弟さんとお会いした帰りなんですよね?」
それぞれにコーヒーの注文を終えた後、雪野さんが会話を切り出す。
「そうなんです。ニューヨークに赴任中なんですけど、なんでも、交際中の彼女との結婚を決めたみたいで。その挨拶にこっちに戻って来ていたついでに、私のところにも報告に来たんですよ」
「そうなんですか! それは、おめでとうございます。嬉しい報告ですね。ねえ、創介さん」
「あ、ああ、そうだな」
榊さんはさっきから、終始複雑な表情を浮かべている。
それも無理はない。でも、私は何も知らないことになっているから、いたって普通にしていなければならない。かなり、難易度が高いことを求められる。
「これから、いろいろ準備とか、あるんでしょうね」
榊さんが、当たり障りのないことを言って、会話を繋ぐ。
「そうですね。今月中には式を挙げたいみたいで。そのせいで、私もニューヨークに行くことになりそうです」
「今月ですか?」
雪野さんが、何故か食いついた。
「え、えっと、まだ決まっていないみたいですが、今から日取りを決めるということは、下旬くらいになるんでしょうか。ホント、急ですよね。人のことも考えろって話しです」
「下旬くらいですか……。なるほど」
何かを考え込むような表情を雪野さんが見せる。
「とにかく、弟はその彼女のことを溺愛していまして。一刻も早く捕まえてしまいたいみたいです」
私が、ふふっと笑うと、予想外に榊さんがその鋭い表情を少し崩した。
「その気持ち、非常に分かりますよ。あまりに想いが強すぎると、男は無意味に不安になるんですよ。それで、木村に叱られたことがあります」
「木村さんに?」
思わず、聞き返してしまった。