ニセモノの白い椿【完結】
「度が過ぎる不安や嫉妬は、相手に失礼だってね。相手を信用していなことになると。俺みたいな人間と違って、あいつは常に、相手の立場でものを考える男です」
「なるほどね。木村さんらしい発想ですね」
相手の立場でものを考える――。
本当にそうだ。考え過ぎるくらいだと言ってもいい。
「……でも、木村さんは、相手のことばかり考え過ぎですね」
雪野さんの言葉に、私の心の声が聞こえたのかとびっくりしてしまった。
「そう思いませんか?」
雪野さんの眼差しが、真っ直ぐに私に届く。
その少しの揺れもない瞳は、私の奥の奥にあるものまで読み取ろうとしているみたいで、一瞬怯みそうになる。
でも――。これだけは思っていることを話したいと、そう思った。
「そうですね。でも、木村さんはそういう人なんだろうと思います。人のことばかり考えて、自分のことなんて二の次で。ホントに、バカみたいに優しい人」
あんなにまでも自分を抑えて、抑えて、抑えぬいて。
「最初は、要領よくて器用で、人生上手いことこなしている人なんだと思っていました。でも、本当の木村さんは、相手のためなら簡単に自分を捨ててしまえる不器用な人なんだと、今では思います」
ホントに、バカ。バカだからこそ、絶対に幸せになってほしい。
「……木村さんを知る全女性たちの中で、木村さんのことを”不器用だ”と言う方は、きっと生田さんだけでしょうね」
そう言って、雪野さんが微笑んだ。
「それは分からないけど。でも、これまで不器用に生きて来てしまった分、自分のことも大事にさせてもらえる相手が現れればいいな、と思います」
私では、そうさせてあげられない。
私といる限り、木村は自分を捨て続ける。
「そんな風に思えるのは、友人だから、ですか?」
優しげな目元をした雪野さんの鋭い視線を、初めて見た気がする。