ニセモノの白い椿【完結】
だから私も、精一杯の強い眼差しで彼女を見つめ返した。
「はい。本当だったら、私の毎日は、やけっぱちで破れかぶれなものだったかもしれない。でも、今こうして笑えるのは、木村さんと友人として過ごした日々があったから。それは、破れかぶれだった私に天から授けてもらった宝物みたいなものです」
本当にそう思う。別に、日頃から神様なんてものを信じていたタイプではないけれど、どん底だった私に同情して木村という人間を恵んでくれたんじゃないかと、本気で思える。
「宝物……ですか。素敵な言葉ですね。宝物だと思えるほどに、木村さんは特別な人なんですね」
雪野さんが、深く沁みいるような声で呟く。
「そうですね。友人の中でも、とりわけ特別な友人だと思います」
私は、笑顔でそう答えた。
それから少しして、カフェを出た。
「今日は、お話出来て楽しかったです。ありがとうございました」
私がそう告げて二人と別れようとすると、雪野さんが唐突に言葉を紡いだ。
「特別だと思える人って、特別って言うだけあって、人生の中でそうそう出て来ないと思うんです」
二人に背を向けようとしていた身体を慌てて雪野さんたちの方へと戻す。
「特別だと思う人とは、どんなことも『特別』に超越してしまったり、普通に考えれば絶対無理だって思うことも『特別』に乗り越えることが出来たり。それがきっと特別ということなんじゃないかと思っていて。だから、その――」
雪野さん――。
彼女の声はどこか少し震えていて、だからこそ、心から訴えようとするものに聞こえた。
「今度また、絶対に木村さんと二人で遊びに来てくださいね。絶対ですよ!」
あまりに雪野さんが一生懸命だから、私は、はっきりとした口調で嘘をついた。
「はい。ぜひ!」
そうすることでしか、彼女に言葉を返すことが出来なかった。