ニセモノの白い椿【完結】
あの夜、木村がしなかったキス。
勝手にして、ごめんーー。
逃げるようにそこから立ち去る。
結局一睡もできない中、何故だか雪野さんの顔が浮かんだ。
――特別だと思える人って、特別っていうだけあって、人生の中でそうそう出て来ないと思うんです。
雪野さんの声が繰り返される。
そうだね。その通りだと思う。
31年間生きて来て、木村みたいな人とは出会わなかったんだから。
きっと、私にとって特別な人。
だからこそ、出会えたことを無駄にしたくない。
これで、本当に、前を向こう。
前を向いて行かなくちゃいけない。
木村に恋したこの日々は、私にとって大切な記憶で大切な思い出となる。
例えこの先、誰かと恋をするのだとしても、この恋は特別なままで存在するだろう。
そんな気がする。
告白されたからというわけでもなく、相手に必要だと言われたからでもない。初めて、自ら恋をした。
それは、私にとっての本当の恋だったのだから――。
次の日の朝、私は、木村のマンションを出た。