ニセモノの白い椿【完結】


仕事頑張ったご褒美に、缶ビール一缶、買って帰ってしまおうかな――。

別に週末でもなんでもないのだけれど、そんなことを思いながら、勤務後の空を見上げた。

その瞬間に風が吹いて、私の長い髪がさらりと揺れる。
東京の夏はじめじめとして不快な暑さだからこそ、こうして時折吹く風の爽やかさが心地良く感じる。

さてと、帰るか。

この日、直属の上司になんとか休暇を取る許可を得ることが出来た。

派遣社員としてこの銀行に就職してから4か月とちょっと。まだ有給休暇はもらえていない。完全なる休暇だ。

それもこれも、アイツのせいで――。

『8月18日の土曜日にこっちの教会で式を挙げることに決まったから。何をどうしてでも休みを取るように』

そう眞から連絡があったのはつい昨日のこと。

まったく。簡単に”こっちの教会”なんて言うけど、その辺にある教会じゃないですから。ニューヨークですからっ!!

本当にあの男、沙都ちゃんのことしか見えていない。

周囲の迷惑をまったく考えていない!

と、眞に対しては怒りしか湧かないけれど、沙都ちゃんの幸せな笑顔が見られるなら、まあいいかと思ってしまう。

それで結局、金曜日から月曜日まで、お休みを取ることにした。
派遣社員だから、休んだ分だけまるまる給料が減る。

……仕方ない。沙都ちゃんのためだ。

金曜の夕方の便でニューヨークに向かうチケットを取った。

< 197 / 328 >

この作品をシェア

pagetop