ニセモノの白い椿【完結】
仕事頑張ったご褒美に、缶ビール一缶、買って帰ってしまおうかな――。
別に週末でもなんでもないのだけれど、そんなことを思いながら、勤務後の空を見上げた。
その瞬間に風が吹いて、私の長い髪がさらりと揺れる。
東京の夏はじめじめとして不快な暑さだからこそ、こうして時折吹く風の爽やかさが心地良く感じる。
さてと、帰るか。
この日、直属の上司になんとか休暇を取る許可を得ることが出来た。
派遣社員としてこの銀行に就職してから4か月とちょっと。まだ有給休暇はもらえていない。完全なる休暇だ。
それもこれも、アイツのせいで――。
『8月18日の土曜日にこっちの教会で式を挙げることに決まったから。何をどうしてでも休みを取るように』
そう眞から連絡があったのはつい昨日のこと。
まったく。簡単に”こっちの教会”なんて言うけど、その辺にある教会じゃないですから。ニューヨークですからっ!!
本当にあの男、沙都ちゃんのことしか見えていない。
周囲の迷惑をまったく考えていない!
と、眞に対しては怒りしか湧かないけれど、沙都ちゃんの幸せな笑顔が見られるなら、まあいいかと思ってしまう。
それで結局、金曜日から月曜日まで、お休みを取ることにした。
派遣社員だから、休んだ分だけまるまる給料が減る。
……仕方ない。沙都ちゃんのためだ。
金曜の夕方の便でニューヨークに向かうチケットを取った。