ニセモノの白い椿【完結】
――ニューヨーク。
眞に対しては散々文句を心の中で言いまくっていたけれど、実は、かなりありがたいと思っている。
異国の地に行くって、いわば、現実から離れることで。
この心を少しでも解放してあげたかった。
どんなに強がっても、やっぱりこの胸は傷心なのだ。
一生懸命に何でもないように自分を言いくるめて日々を過ごしているけれど、そのしわ寄せは必ず週末にやって来る。
ニューヨークに旅立てることは、たとえそれが短い期間だとしても、私にとっての心の支えだった。
待ちに待ったニューヨークへの出発の日がやって来た。
前日に、ほんの少し迷惑そうな顔をした上司に挨拶を済ませ、
そして、白石さんからは「楽しんで来てくださいねー」という言葉をもらって、この日から休みに入った。
この日の夕方の便でニューヨークに向かう。
そのために、朝からバタバタと出発の準備をしている。
前の晩、仕事から帰ってからしておけばいいものを、次の日夕方の便だと思ったらやる気にもならず。それで結局、当日になって、こうしてスーツケースを広げている。
式のためのドレスに靴に、バッグ……。
ただの旅行と違ってフォーマルを用意して持っていかなければならないのが面倒だ。
なんとかスーツケースに詰め込み、鍵を閉めた。
これでよし――。
時計を見たら、まだ10時だった。思いのほか早く出発の支度が済んだ。
部屋も、もともと物がない分綺麗に片付いている。
でも、狭い部屋にスーツケースがあるだけでかなりの圧迫感で。
玄関先に運んでおこうと、スーツケースを持って玄関へと向かった時だった。
――ピンポンピンポンピンポンピンポン。
呼び鈴があり得ないほどの回数鳴り響いた。
な、なにっ?
一瞬にして恐怖が身体を駆け巡る。
一度怖い目に遭っているから、フラッシュバックのように蘇るのだ。
その呼び鈴が鳴り終わったと思ったら、今度は玄関のドアを叩く音がする。
だ、誰よ!
恐怖で身体が強張るのを必死でやり過ごしながら、ドアの覗き穴から恐る恐る様子をうかがう。
な、なんで……?
恐怖心による鼓動が、別の鼓動に変わる。