ニセモノの白い椿【完結】


”完全なる美しさ”

”至上の美”

”申し分のない魅力”


白い椿の花言葉は、まさに私の姿を表しているようで。

人から『美しい』と言われるたびに、そのイメージに応えようと装って来た。

それはそれは必死になって懸命に、時には自分をすり減らすほどに。

だから、私は理解している。

自分が美しい人間なんかじゃないということ。

装っている時点で偽りなのだ。

容姿という(うつわ)の中で、いつも醜い自分がみっともなくもがいていた。

私は、美しさを装う、ニセモノの白い椿だ――。

偽物はニセモノでしかない。


『君と結婚できた僕は、世界で一番幸せな男だ』とまで言った男が、他の女に走った。

それも、結婚して一年足らずで。
どうしても手に入れたかったはずの女が、どうしても捨てたい女に変わったらしい。
そして私は、放り出されて一人になった。

”本当はニセモノだったということに気付いたからーー”

という理由だったらよかったのに。

あの男はそんなことに気付くことなく、ただ『君の美しさが窮屈だ』と言った。

結局誰も、私を見ようとしない。

外見に意識を向けられたまま、心に目を向けてくれない。


まあ、それも仕方ないのだけれど。

だって、完璧に装って来たのだから――。

< 2 / 328 >

この作品をシェア

pagetop