ニセモノの白い椿【完結】

「あなたのことが好きなんだ。本当は、最初から。ごめん、嘘ついて」

その言葉を、木村から直接もらえることは、一生ないのだと思っていた。
絶対に交わらない想いだと思っていた。

間近にある木村の目が細められる。そして、その手のひらが伸びて来て、私の目元に長い指を添わせた。その時初めて、自分が泣いているのだと気付いた。

「生田さんは? 俺のことどう思ってる?」

「私は――」

「待って」

口を開こうとした私を、すぐさま木村の声が遮る。

「ごめん。生田さんの答えがどちらであれ、結論は変えてあげられない。その代り、俺に惚れさせてみせるから。だから、ずっと俺といてください」

「で、でも、木村さんはいつかお見合いをしてちゃんとした人と結婚する。そう決まっているんだよね? だから、これまで女の子を遠ざけて来たんでしょ?」

私に触れる木村の指も私を見つめる眼差しもあまりに優しいものだから、強張った心が溶かされて、甘えてしまいたくなる。

「……親に逆らわずに生きて行くことが、結局一番いいことなんだと思ってた」

木村の静かな声は、まるで私をなだめるようで。

「そうすれば、不要な争いをしなくてすむ。無意味に誰かを傷付けずにすむから。それが一番合理的で楽だと思ってたんだ。だから、誰のことも好きになるつもりはなかった」

もしかしたら、誰かを傷付けてしまった過去があるのかもしれない。
だから、もう同じことはしたくないと頑ななまでにその自分の中の決まりを守って来た。
それがきっと、木村の優しさなのだ。

「でも、生田さんだけはダメだった。いつもあなたのことが気になって。目が離せなくて。強がったり弱音を吐いたり、いろんな顔を見せるあなたが可愛くてたまらなかった」

これは、かなり甘い告白だと、受け止めて、よいのでしょうか――?

こんなにもストレートに木村に目を見て言われれば、どうしてよいのか分からなくなる。

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