ニセモノの白い椿【完結】
大人の恋、それは甘く険しい
episode1 大人の恋は無邪気になれない
一週間の仕事を終えた、金曜日。
職場でこっそりと渡された合鍵で、この部屋に入る。
ニューヨークから帰国した月曜日から4日ぶりだ。
玄関の鍵を閉めてから、手のひらにある鍵をしみじみと見つめる。
結局、またこの手に戻って来たんだな……。
休みの土曜日に会えればいいと思っていた私に、『金曜、俺のマンションで待ってて』と先回りするみたいに言われた。
そんなわけで、着替えやその他、準備万端で職場からそのままここへとやって来た。
派遣の私と違って木村は基本的に激務だから、早い時間に帰って来られる日は限られているけど――。
部屋着に着替えようかどうかと迷った挙句、それはもう少し後にすることにした。
もしかしたらそろそろ帰って来るかもしれない。早々に部屋着で待っているのもどうかと思う。
何時になるのかを聞いていない以上、予想しか出来なくて。
その考えの延長で、念のため食事を作っておくことにした。
久しぶりに、キッチンに立つ。
私と木村とで揃えた調理器具は、そのままの場所に置かれていた。
これからの時間で胃の負担にならないもの……。
冷蔵庫の中にを見てある限られた食材を見回す。
シーチキンの缶詰と、袋入りのサラダ。
それから、私がまだここに住んでいた時に買っておいた、乾麺のうどん。
冷やしサラダうどんを作ることにした。
茹でるうどんの量を一人分にするか二人分にするか迷っていると、玄関の鍵が開く音がした。
「生田さんっ、来てる?」
ただいまも言わずに、ダイニングに木村が駆け込んで来た。
「お、おかえり。早いね」
壁に掛かる時計に目をやると、19時半を回ったところだった。