ニセモノの白い椿【完結】
ーーはぁ。
「木村さん、また、溜息っすか」
「は?」
夕方、外回りから戻ってデスクで残務処理をしていると、隣の席から後輩の気の抜けた声が耳に届いた。
「今日、何度目ですか。ただでさえ月曜で憂鬱なんですから、やめてくださいよ」
「俺、溜息ついてた?」
実際に溜息を吐いたつもりはまるでない。
「はい。盛大に。朝4回、夕方戻って来てから3回」
「そんなもん、数えてんなよ。気持ち悪いな」
そんなにも無意識のうちに溜息を吐いていたなんて、自分で思っているよりも重症だ。
外に出て相手方と交渉している時はいいのだけれど、こうしてふと息つく瞬間、どうしてもあの人の顔が浮かぶ。
「だいたい、なんで木村さんがそんな冴えない顔してんすか? 先週、支店長に褒められたばっかじゃないですか。羨ましいですよ、木村さんは。いつもそうやって涼しい顔で仕事取って来るんですから」
「……はぁ」
「またっ!」
先週の金曜日、抱き合った後の生田さんの顔、そればかりが何度も思い起こされる。
あの人と別れてから、ずっとだ。
一緒に暮らそうかと言った時の、咄嗟に見せた彼女の顔――。
「何がそんなに木村さんを暗くさせてるのか知りませんが、元気出していきましょうよ」
心のまったくこもっていない能天気な声に、少々イラっとする。
「ああ、もう。仕方ないな。本当は木村さんは誘いたくなかったんですが、今度の水曜、木村さんもどうですか?」
「何が」
「CAとの異業種交流会です! 綺麗な子集まるっていう情報が既に入ってます」
急に声が活気付く。そんな後輩に冷めた目を向けた。