ニセモノの白い椿【完結】
「土地勘がなくて。どこにどんなお店があるのか、まだよく分からないんです。だから、ここで食べる方が確実だと思って」
「そっか。それなら、僕が今度案内するよ。この辺、結構おいしくてリーズナブルな店、たくさんあるんだよ」
ほれほれ、来たよ。
目の前の男は、躊躇うことなくそんな言葉を口にした。
迷いなく、自信に満ち溢れた態度で誘って来るタイプ、そのものだ。
そつなく着こなしたスーツに、それでいてワンポイントにこだわってます風な少し遊び心のあるネクタイ。そこが、あざとい。
そして――だいたいが中途半端なイケメンだ。それが本人を自惚れさせる。
興味なし。
そもそも、男はもうこりごり。
――ということを変換して言葉にする。
「ご親切に、ありがとうございます。でも、とりあえずは仕事に慣れたいので、今はお昼休みの時間も仕事を覚えることに使いたいんです。慣れて来たら、また、お願いします」
「そ、そう……?」
男のスマイルが、少し翳る。一つ返事で『イエス』と言われると予想していた顔だ。
今までの女は、そうだったのだろう。
私が自分の顔を忌み嫌う理由の一つはこれだ。
私のような女に、初対面の男が誘いをかけて来る場合、たいていが自信家の自惚れオトコだ。
綺麗な女を前にしても、堂々と誘いをかけてくる男なんて、ロクな奴じゃない。
遊び慣れているか、実体の伴わない自信に満ち溢れた男。
謙虚さのかけらもない証拠だ。
そんな男しか、私に言い寄って来ない。
「はい。早く仕事を覚えられるよう、頑張ります」
最後に、とびきりの笑顔で返すと、その男は少し気分良さそうに「分かった」と言って立ち去って行った。
はぁ。本当に、面倒くさい。
手にしていたおにぎりにもう一度ぱくつくと、一口目より少し固くなっていた。
あの人のせいで、米が固くなった。
「――あなた、感じのいい人だったんだね」
え――?
さっきの男とは違う声。
また、誰か――。
そう思って顔を上げると、ラウンジの入り口の脇にもたれて立っている男性がいた。
腕を組み、私を見ている。