ニセモノの白い椿【完結】
破れかぶれの夜、降って来た出会い

episode1 破れかぶれの新たな旅立ち



東京に出て来よう――。

宿泊していた銀座にあるホテルをチェックアウトして通りに出た時、ふと、そう思いついた。特に、前から考えていたわけでもない。ただの思いつきだ。でも、思いつきにしては妙案だと思った。

これまでの人生も、自分自身も、全部リセットできるかもしれない。

駅に向かおうとしていた足を止め、銀座通りに立つ。

買い物客、観光客、ビジネスマン――たくさんの人が行き交う。そこを歩く人は、誰も私を知らないし気にも留めない。

地方の人間としては、都会の華やかさに憧れる一方で、都会はただただ人が多くてよそよそしいというイメージがある。そこに冷たさも感じて怖いなんて思ったりもする。でも、今の私には、そのよそよそしさが心地良い。

思いつきに身を任せてみるのもいいかもしれない。

人生、熟慮したからと言って必ずいい結果になるとも限らない。とにかく、何も考えずに勢いで動いてみたくなった。


駅ではなく目に入ったカフェに入る。

東京で暮らすには、まず仕事を探さなければならない。

二年ほど前、結婚するのを機に地元浜松の銀行を退職してからは、ずっと専業主婦だった。ブランクはあるとは言え、銀行の派遣社員ならすぐに出来るかもしれない。
それなら、手っ取り早いのは派遣会社に登録することだろう。

スマホを手にして、派遣会社を検索する。

住む場所は……仕事を決めてからでいいだろう。
今の住まいは、夫と暮らしていた浜松の賃貸マンションだ。元夫が家を出たから、一人でその家に暮らしている。

とにかく仕事だ。

なんだか少し楽しくなって来た。とりあえず、目の前にやるべきことがあるとそのことだけに意識を向けられる。仕事もせずに、一人、夫の気配の残る家にいた時とは気持ちが違う。


それからすぐに派遣会社に連絡をした。
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