ニセモノの白い椿【完結】
俺と別れたいと言った椿の気持ちが、どうしようもなく俺を哀しく虚しくさせる。
二人で過ごした時間をすべて否定されたように思えたからだ。
二人でいると決めた以上、何があっても離れないでほしいと思っていた。
二人で頑張るという選択をしてほしいと。
でも――。
それは俺の気持ちであって、彼女の気持ちではない。
負の感情に飲み込まれそうになる自分に、冷静な頭で考えろと懸命に言い聞かせる。
恐ろしいほどの喪失感に負けそうになりながら、必死に椿の立場に立って考えた。
椿と過ごした時間、俺が、誰より近くに椿の傍にいた。
時間を共にして、言葉を交わし、その表情仕草すべてを目に焼き付けて、触れ合った。
やっぱり、どう考えてみても椿の俺に対する気持ちは、”その程度”なんかじゃない。
椿は心からの想いを俺に向けてくれた。
それは、椿なりの愛だ。
突然、なんの心の準備もないまま、一人俺の父親に向き合わされた。
どれだけ心細かっただろう。
俺は、椿を守り切ることが出来なかった。
それは、紛れも無い事実だ。
俺には何も言わずに、陰で椿のことを調べ、そして、立場の弱い彼女の前に現れる。
そんな行動に、我が親ながら怒りが込み上げる。
少し考えれば分かる。
俺のためにと自分を押し殺す彼女の想いが、どれだけ大きいものか。
親であっても、許せないことがある。
俺が考えるべきことは何か。
俺がするべきことは何か。
夜が明けるのも気付けないほどに、椿の想いとそして自分自身と向き合った。
そして、空が完全に明るくなった時、俺は、一つの結論を選択した。
俺の覚悟は、最初から決まっている。