ニセモノの白い椿【完結】
「大事なことは、ただ一つだ。椿は、俺のことが好きか?」
そのシンプル過ぎるほどの問いに、思わず固く目を瞑る。
「『はい』か『いいえ』、そのどちらかで答えて」
「そんな……っ」
「言っただろ? その二つ以外の答えは認めない」
そんな聞き方ずるい。
どうすることも出来なくて、ただ俯く。
木村の手が私の手を取った。
「俺は、離婚したことがある人と出会った。そして、離婚した後のあなたを好きになった。だから、自分の過去を否定しないで。もう、誰にも何も言わせない。あなたは、ただ俺の気持ちを受け入れてくれればいい」
そんなことを言われたら、私は――。
あの時した決断を、いとも簡単に覆してしまいたくなる。
その手を握り返したいと思ってしまう。
本当にその手を取ってしまっていいのか葛藤は消えないのに、涙が勝手に溢れて来るから、ちぐはぐな自分を曝け出すことになる。この涙のせいで、心の本当の部分を差し出すことになる。
「その涙の意味は、『はい』だよな?」
どうしたところで涙を止めることなんてできず、俯いたまま自分の顔を手のひらで覆う私を、木村の腕が引き寄せた。
久しぶりに木村の腕に包まれ、その懐かしさに余計に涙がこぼれる。