ニセモノの白い椿【完結】
「椿、二人で幸せになろう。そうすることで、俺たちが正しかったと分からせよう」
木村といると、本当にいたい自分でいられた。
この腕の中が、本当の自分に戻れる場所だった。
木村と出会った日からずっと、そうだった――。
「……私、性格歪んでるよ」
「うん。知ってる」
「私、酒飲み過ぎると暴れる」
「それも知ってる」
大きな手のひらが、私の背中を、私の頭をがっしりと固く掴む。
「――表裏も、激しいんだよな」
「そうだよ。私はそんな女だよ」
溢れる涙が、温かくて私の頬をじんとさせる。
「実は、自分のことより人のことを考えてしまう椿を知ってる。何より、俺に全部を見せてくれる椿が好き。大好きだ!」
きつく腕の中に閉じ込められていたのに、勢いよく身体を引き剥がされたかと思うと、急にその顔が真正面に迫って来た。
「だから、もう何も言うな。ただ『はい』と言えばいい」
肩を掴まれたまま、その長い指が私の顎を持ち上げる。
「――俺と、結婚して」
思わず目を見開いた。
「ほら、早く。答え」
涙ばっかり次から次へと出て来て、上手く唇が動かない。
「『はい』と言わないと、ここであなたを抱き上げて連れ去るよ?」
意地悪なようで真剣な眼差しに、そのふざけた発言にも関わらず私の感情は決壊して涙も何も収拾がつかない。
でも、こんな、人で溢れかえった歩道の真ん中で抱き上げられても困る。
もう、知らない。どうなったっていい。木村の傍にいられるなら、どうなったって――。
大人としてどうあるべきかと考えた末に出した答えも、木村のためをと思って出した答えも、
何もかも放り投げて、ただ自分の想いにだけに従って思い切って口を開いた。
「はい――」
ん――!
ちゃんと、「はい」と言ったのに。何故か、私の唇は塞がれている。
抗議したいけれどあいにく唇は使用中で。
懸命に手で木村の胸を叩いた。