ニセモノの白い椿【完結】
「本当は、このまま連れ去って俺が独り占めしたいけど、俺たちのために集まってくれた人たちが待っているから、行くとしますか」
そう言って、私の手を取り自分の腕に絡めた。
「そうするに決まってるでしょ」
可笑しくなって笑う。
こんな風に陽太と笑い合える日が来るなんて。しみじみとそんなことを思った。
”大の仲良し”とは行かないまでも、今では、陽太のご両親は私を受け入れてくれている。
お母様の方は、かなり打ち解けられたと思う。
お父様は――、まあ、あまり言葉は交わさないけれど、独り立ちした息子を見つめる目はすこぶる誇らしげだし。
それに、口数が少ないなりにたまに私に掛けてくれる言葉は結構グッと来たりする。
こんな風になれたのも全部、陽太が一歩を踏み出してくれたから。
その想いをお父様に逃げずに訴えてくれたからだ。
「陽太……」
「ん?」
身をかがめて私の言葉を待つ陽太の耳元に、囁いた。
「愛してる」
驚いた顔をして私を見つめる。
「そんなこと言って、俺をからかうとどうなるか分かってるよね?」
「どうなるの?」
再び私の耳元に唇を寄せて来た。
――今日の夜は覚悟しておいて。家族をもう一人増やすつもりで臨むから。
「は、はい?」
何を突然言い出すのかと思ったら。
「いい案だろ?」
いつか、まだ陽太と友達だった頃、二人で買い物に出かけた時に見掛けた家族連れの光景が蘇る。
あの時、その光景は私にはもう手に入らないものだと思っていた。
未来はまだ分からない。
でも、あなたと歩む人生なら、そのすべてが必然だと思えるから――。
「椿、ほら行くよ――」