ニセモノの白い椿【完結】

”完全なる美しさ”

”至上の美”

”申し分のない魅力”

白い椿の花言葉は、まさに私の姿を表しているようで。
人から『美しい』と言われるたびに、そのイメージに応えようと装って来た。
それはそれは必死になって懸命に、時には自分をすり減らすほどに。

だから、私は理解している。

自分が美しい人間なんかじゃないということ。
装っている時点で偽りなのだ。
容姿という(うつわ)の中で、いつも醜い自分がみっともなくもがいていた。

私は、美しさを装うニセモノの白い椿だ――。

偽物はニセモノでしかない。

でも――。
誰もが多かれ少なかれ、自分を守る鎧のように、その器の中に生身の自分を隠して生きている。大人だから、ありのままでは生きられない。

それでいて、本当の自分を知ってほしいと必死に願うのだ。
本当に愛した人には知ってもらいたい。自分のすべてを。
ニセモノではないホントウの自分も知ってほしい。

「陽太、ありがとう!」

私の手を引く、その広い背中を見つめて声を掛ける。

「何が?」

陽太が振り向いた。

「私を愛してくれて、ありがとう!」

本当の私を見つめてくれて、ありがとう。

「……こちらこそ。俺を愛してくれてありがとう。俺に本物の人生をくれてありがとう」

細められた眼差しが、柔らかく私に向けられた。

そして思う。
私も、愛してやまないあなたをもっともっと知りたいって。
これから先もずっとあなたを見つめて行くから――。

その手をもう絶対に離さない。
二人並んで、歩いて行く。


【完】
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