ニセモノの白い椿【完結】


「生田さんっ!」

そこには、いつものつかみどころのないどこかふわっとした木村ではなく、焦ったような慌てたような、感情をそのまま表した木村がいた。

木村を待っている間、コンビニ店内にある大きな柱の陰に身を潜めるようにじっと立っていた。
そんな私に、駆け寄って来る。
その存在を見ただけで、身体中に張り詰めた力がゆるゆると解けて行った。

「もう、大丈夫だ」

そっと、私の背中に手を当ててくれて、軽くぽんぽんと叩く。

「――まだ、いる?」

「木村さんに電話してから、この柱の陰に隠れていたから、確認してないの」

そう伝えると、木村がそっと窓の外をうかがう。
木村には電話口で、ただ『見知らぬ男に付けられている』とだけ伝えておいた。

「その男、どこにいた?」

いつもよりずっと優し気な声。
こちらまでいつもの調子が崩れてしまいそうになる。
私も、やっぱり女なのか、本能的に守られたいと思ってしまうのかもしれない。

「駐車場脇にある電信柱のそばに……。黒っぽいスーツ、着てた」

「分かった。様子をうかがってみるよ」

私の肩をそっと引き寄せ、木村の身体に隠してくれる。
間近に感じたその身体に、この人もちゃんと男なんだと、当たり前のことを思った。
出会った日、同じベッドで寝ていた時には感じなかったものだ。

「――ああ、あの人かな。まだいるみたいだ。相当、しつこいな。生田さんが出て来るのをずっと待ってる気だろう。それに、おそらく、自分の存在に気付いていると分かっているだろうね」

「……うん」

そうかもしれない。通り過ぎたコンビニに戻ったかと思えば、店内に入って30分以上出て来ないなんて、普通じゃあまり考えられない。

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