ニセモノの白い椿【完結】

「――とろろ蕎麦、好きなの?」

「え……ええ、まぁ」

思い出したそばから、木村に気付かれてしまった。
コンビニ弁当を買っている姿を、なんとなく知られたくないと思う自分がいる。
それは一体どんな理由からか。一人コンビニ弁当を食べる女に侘しさでも感じられたら、悔しいからか。

まあ、木村ならいいか。

「夕飯のために買ったんでしょ。どうぞ、食べてください」

それでも、やっぱりどこか気まずい。
プラスチックの透明の蓋を開け、ローテーブルに置く。落ち着かないままに、箸を割った。

「――それでだけれど。とりあえず、ここに住むといい」

「は、い……?」

住むって、どういう意味――。

蕎麦に箸を絡めようとしていた手を止めて、木村を見上げる。

「ここなら、しばらくいてくれても支障ないから」

何でもないことのように、当然のことのように木村が言い放った。

「何言ってるの? 私は、とりあえず今日だけお世話になるつもりでここに来た。明日からのことはまたちゃんと考える。そこまで世話になる理由はない」

私が大真面目に訴えても、木村のどこかとぼけた表情は変わらなかった。

「俺、ご存知の通りセレブなので、一人暮らしなのにこのマンションそこそこ広いんだよね。余ってる部屋もちょうど一つある。二人で暮らしても何の問題もない」

「一緒に暮らすって……?」

いつもいつもどこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からない口調の木村に、今度ばかりは声を荒げた。

「ふざけないで。あなたと私が一緒に暮らすなんて、そんなこと出来るはずない――」

「俺は、ふざけてなんかいないよ」

さっきまで、冗談交じりの口調だった人が、真剣な声で私を遮る。

「こういうことを、甘く見ない方がいい。『あの時、ああしていれば良かった』なんて後で思うようなことには絶対になりたくない。確かに、ただ男につけられていたからと言って家まで変えるのは大袈裟なことだと思うかもしれない。でも、それで確実にあなたの身を守れるなら。俺は、躊躇いなく、あなたをここに住ませるという選択をする」

いつもは捉えどころのない木村が、私を真っ直ぐに見ていた。
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