ニセモノの白い椿【完結】
その揺るぎない、有無を言わせないような目に、私は何も言えなくなった。
「――ここに住む。それでいいね?」
だから、私は、頷いてしまっていた。
「よし。じゃあ、とりあえず、そのお蕎麦、食べちゃって」
頷いた私を見た途端に、その表情をいつもの表情に戻した。
私ばかりが、振り回されているような気がする。
「――ここの部屋使って」
どこか緊張しながら蕎麦を食べ終えた後、木村がマンションを一通り案内してくれた。そして、最後に六畳ほどの洋室に私を連れて来た。
「この部屋、全然使ってないから。本当に、気にしないで。自由に使ってください」
「あ、ありがとう……」
木村の言う通り、ダークブラウンのフローリングの上には一切物は置かれていなかった。完全に空いていた部屋だと分かる。
どうして、若い男が完全に一部屋余らせられるほどの部屋に住めるんだ――。
と思った瞬間に、この男が、頭取の息子だったということを思い出した。
「それから、このマンション、俺の持ち家だから。住む人間が増えようと特に何の問題もない。だから、堂々と廊下とかエントランスとか通ってくれていいからね」
部屋の入口に立つ木村がニコリと微笑む。
何――! 賃貸じゃないって?
独身で持ち家とか。まあ、大手都市銀の行員なら二十代でも十分ローンは組めるんだろうけど、おそらく、ローンなんて組んでいないんだろうな。このおぼっちゃまは……。
「ん? 何?」
ついまじまじと木村の顔を見てしまっていた。
「い、いえ。なんでもありません。じゃあ、とりあえず、決め事をさせてください」
真っ直ぐに木村に向き直る。少しの間とは言え、一緒に暮らす以上、ここは最初にきっちりとしておいた方がいい。