ニセモノの白い椿【完結】
「それで、一番大切なことだけれど。いつまでお世話になるかということ」
「え? 今、はっきり決められないだろう? いいよ、状況を見て考えて行けば」
私は、木村を真っ直ぐに見て、頭を横に振った。
「こういうことは、最初にきちんと期限を決めておくべきことだと思うの」
始める時より、きっと、終わる時の方が決めるのが難しかったりすることがある。
「あのアパートに戻るのか。それとも、新しい部屋を探すか。これから決めようと思ってる。どちらにしても、ここにお世話になるのは三か月以内。それで、どうかな? もちろんそれは”最大で”という意味で、それより早く状況が整えばその時に出て行く。私としても、あまり迷惑にはならないように急ごうとは思ってるから」
私がそう言うと、木村は難しい顔をして黙り込んだ。
「もしかして、三か月は長かったかな……? そうだよね――」
『今日一日世話になるつもりだった』とさっき言っておいて、三か月というのは少し図々しかったかもしれない。
「いや、違うよ。長くなんかない。そうじゃなくて、本当に、三か月で大丈夫?」
心配そうに私を見る。
「うん。三か月あれば、敷金礼金も貯められると思うし。月1万でいいと言ってくれたんだもん。十分、大丈夫」
そう笑顔で答えると木村が安心したように息を吐いた。
「――分かった。あなたの気が済むようにしてくれればいい。どうしたって気を使うのは生田さんの方だろうから。じゃあ、これから三か月、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
差し出された手を、そっと握り返す。
こうして、私と木村の、期間限定、秘密の同居生活が始まった。