赤いゼラニウムが咲く頃に
閑静な住宅街。事件やトラブルも特にない、ご近所づきあいも苦にならない、いい人たちばかりの場所だ。
一人で帰っていても、特に何も起こらない。だがしかし、ここに心配性な男が一人。
暗い時間まで外に出てたらダメだよ、何が起こるかわからないんだから。と、なぜか説教をされている。
なぜここまでしつこいのかよくわからないが、今はすれ違う女子高生の制服が可愛い、リボンがピンクだ、今どき珍しい、と日和は呑気なことを考えていた。
本当は私もあの制服を着たかったんだけどな、と自分の制服を見てしゅんとなる。
また一縷に怒られると思い、話を聞く。
「で、話って何?」
話を振ると、一縷は難しそうな顔をして、長くなるんだけど、と一言。
別にいいよ。と言うと、一縷は絞り出すように、少しずつ話し始めた。
「最近、女子高生が誘拐される事件があるでしょ?あの事件のこととか、見えたりしないかな〜って。」
誘拐?ああ、今日のニュースでやっていたあの事件か。
今日、一縷が来る直前、女子高生の未来が見えた。と伝えると一縷は、どんな未来だった?と食い気味に聞いてきた。
「女子高生が男の人に怒鳴られてるところ。女の子がどんな状況なのかはわからなかったけど、座り込んでる感じだった。男の人に前髪掴まれて、無理やり顔を上げさせられてる感じで。」
でも、これだけで何か手がかりになるのだろうか。
「それ、どんな場所だったとか、事細かに教えて貰える?」
そう言われ、言われた通りに詳細を話した。
怒鳴られるシーンから始まり、場所は薄暗くてよくわからなかったが、長い鉄パイプが吊るされていた。
女子高生のスカートは緑のラインが入ったスカート。上はわからないが、ブレザーも着用していた。
犯人の顔はわからないが、声はどこかで聞いたことがある。
逃げようとしたな、などという言葉も言われていた。
など、覚えている限りのことを伝えた。
一縷は真剣な表情で話を聞き、メモを取っていた。
「そうか。嫌なことを思い出させちゃって悪かった。でも、助かるよ。ありがとう。」
そんなこんなで話をしているうちに、気がつくと家の前に着いていた。
いつものルートで帰ればそんなにかからないのだが、一縷が遠回りで帰ろうとしつこかった為、だいぶ遅くなった。
「結構歩いて疲れたなあ。」
「ごめんね。でも、危ないからさ。」
「いつも歩いてるけど、あそこそんな危なくないよ?」
「日和、いつでも安全とは限らないんだよ。」
一縷の言っていることは間違いではない。でも、安全だけどなあ、と思う自分もいた。
「あ、あとさ、連絡先交換しない?また未来が見えたりしたら、教えて欲しいんだ。それと、帰りは毎日俺が送るから、学校が終わる時間、必ず連絡して。」
「え、交換するのも教えるのも構わないけど、送るのはいいよ。一人で帰れる距離だし。」
「絶対一人で帰ったらダメ!わかった?」
なんで彼女でもなんでもない私を、こんなに心配するのだろう。
不思議ではあるが、一縷の気迫に負け、承諾することにした。