契約ウエディング~氷の御曹司は代役花嫁に恋の病を煩う~
私は会社を早退して、夕暮れ時の『ひなたぼっこ』に立ち寄る。
普段は完売しているはずのパンが大量に売れ残っていた。

「あ・・杏南ちゃん…」

葉月さんが私に声を掛けて来た。

「どうしてこんな売れ残っているの?」

「それが…変な噂が流れてて…ウチのパンに毒が入ってるって…」

「・・・毒?」

「その毒の入ったパン食べて…死にかけた子供いるって…言ってる人が居るのよ…酷いと思わない?」

その死にかけた子供って俊吾さん?
あれは、食べれない小麦のパンを食べて…つーかもう二十年も昔話じゃない。

「杏南か…」

厨房から浩平兄が出て来た。

「お父さんは?」

「母さんの具合が悪いって店に電話が入って…病院に行ってしまった」

「えっ?それって…命に関わるコト?」

「さあな…」

浩平兄は首を傾げる。
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