契約ウエディング~氷の御曹司は代役花嫁に恋の病を煩う~
私はゲストルームで休み、部屋の窓から邸宅を出て行く車を見送った。

「失礼します」
黒崎さんが忙しい合間を縫い、私の様子に訊ねて来た。

「彼らは帰りました…」

「ありがとう…」

私は俊吾の機転で彼らに会わずに済んだ。

「でも、酒井衆院議員のご子息の亨彦さんはしきりに貴方に会いたいと話されていました…」

「私は会いたくないです…」

「それは分かっています。でも、そう何度も同じ手は使えませんよ。杏南様」

俊吾の気遣いとは言え、長谷川家当主の妻としては失格な対応かもしれない。
私は黒崎さんに窘められ、反省する。

「まぁ、俊吾様が考えたコトですからね…」

「俺の考えたコトだ。杏南を責めるな…黒崎」

「俊吾様…!?」

俊吾も私の様子を見に来た。
「ほら、差し入れだ…杏南」

俊吾は長谷川家の祝いの席で出される和菓子を持って来た。

輪島塗の小さな四君子の重箱には、食べるの勿体ない一口サイズの和菓子が並んでいた。

「お茶を用意してくれ。黒崎」

「承知しました」



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