契約ウエディング~氷の御曹司は代役花嫁に恋の病を煩う~
「杏南、準備は出来たか?」

「まぁ」

互いに一つだけ譲れない約束を交わした。

でも、彼の態度に何の変わりもなかった。
「ほら、行くぞ。杏南」

彼が私の手を握り、部屋の外へとエスコートしていく。
廊下はナチュラルカラーの優雅でクラシカルな唐草模様のカーペットで埋め尽くされていた。


「あの…俊吾さん」

「何だ?」
彼は足を止めて振り返り、眼鏡の奥の二つの優しい眼差しを向けた。
あの時、泣きじゃくってた迷子の私に向けられた瞳と被る。

「試しに呼んだと言えば、怒ります?」

「・・・そんなくだらないコトでは怒らないよ。杏南」

彼は頭に片手をのせてクシャクシャと髪の毛を乱し始める。

「ちょっと何するんですか??怒ってるじゃないですか??」

乱れた髪の毛を自分で直していると急に彼の指が私の髪の毛にスーッと櫛のように通された。背筋を迫り上がる擽ったい感覚。

「自分で直します」

「・・・遠慮すんなよ」

「いいって」

私は逃げるようにエレベーターホールまで先に走った。



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