身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました


 事故……まさにあれはそう言える不測の事態。

 唯一手元にあった避妊具が、劣化していたのか使い物になっていなかったのだ。

 なんつーもんを人にくれやがった……。

 破けていたそれを見て、心の中でそう毒づいた。

 それはまだ、東京にいたある日のこと。

 医局の先輩が同期や後輩、研修医たちになぜか避妊具を配るという謎の行動を取っていたことがあった。

『避妊はしろよー、絶対しろよー』などと、警鐘を鳴らしながら。

 どういう意味だか「お前は頻度が多そうだから箱ごとやるか」などと、完全に偏見を持たれた言い方をされ、内心カチンときながらも引き攣る笑みで「だといいんですけどねー」と返すと、とりあえずひとつは持っておけと無理矢理正方形のパッケージを手渡された。

 あとあと聞いた話では、その先輩が病院内の看護師に手を出し、避妊無しで行為に及んだところ妊娠をさせてしまったということだったらしい。

 そんな経緯で財布の中に入っていた避妊具。

 使う機会もなく忘れかけていたけれど、そういえば持っていたと思い出したのだった。

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