身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました
「素敵ですね、プロの方とかですか?」
「いや、違う違う」
あんなに上手なのに、違うんだ……。
「聞いて驚くなよ? 彼ね、外科医なんだよ、医者」
「えっ、医者!?」
思わぬ答えが返ってきて、つい声のボリュームが上がってしまう。
咄嗟に口元を両手で抑えた。
案の定、「しぃー!」と言われる始末。
「お、お医者さま……」
「驚いたろ? 東京のほうから来てんだよ、出向? とか言うんだっけか」
そんな話をしていると、いつの間にかピアノの音が止んでいる。
カウンターの向こうから不意に振り向くと、ピアノから離れた医者だという彼がカウンターに向かって近付いてきていた。
見てない素振りでパフェに視線を落とす。
「マスター、一杯もらうわ」
L字カウンターの手前側に座っている私から、ちょうど斜め向こう側のカウンターの奥まった席。
そこにやってきた男性は、カウンターの向こうに声をかける。
やはりマスターだった男性は「いつものな」と、よく知っている様子で磨かれたグラスを手に取った。