身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました
「何にする? あー、えっと……名前、聞いとくかな」
メニューを差し出してきたマスターがいきなり私の名前を聞いてくる。
そして「俺はマスターでいいよ」と付け加えた。
「あ、えっと……宇佐美です。宇佐美佑杏と申します」
「佑杏ちゃん、可愛い名前じゃん」
「あぁ、ありがとうございます……」
昼間来た時と同じ青いグラスでお冷を出してくれたマスターは、私の斜め前に掛ける晴斗さんに「佑杏ちゃんだって」と、話を振った。
「マスター、初めて来たお客の名前聞くのどうかと思うけど」
晴斗さんの鋭いツッコみに、マスターはフッと口角を引き上げる。
「佑杏ちゃんは初めてじゃないから、これで二回目のご来店。ねー?」
同意を求められ、「あはは」と笑ってみせる。
そんな調子のマスターに、晴斗さんは黙ってグラスに口をつけた。
昼間とは違う背の低いグラスで、ウイスキーがブランデーを楽しんでいる。
「それに、晴斗は知ってるだろー? 俺がお客さんの名前聞いて、また次に来た時にちゃーんと名前覚えてること」
「まぁ、それは」
「だろー?」
向こうのテーブル席から「すみませーん」と呼ばれ、マスターはその場を離れていく。
状況的に晴斗さんとふたりになってしまい、何か話そうかと口を開いた。