身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました
「……彼と、来る予定だったんです」
「えっ! じゃあもしかして、別れちゃったとか!?」
「まぁ……そんな感じですかね」
木のコースターが置かれ、そこにオーダーしたグァバソーダが出てくる。
グラスの縁にパイナップルとオレンジがついていた。
「マジか……でも、それならキャンセルすれば良かったじゃん? って、沖縄に来てくれたお客さんに言う言葉じゃないけど、佑杏ちゃんの立場で考えての意見でね」
「それが……旅行の前日に、ちょっといろいろと……」
それ以上なんと説明したらいいのかわからず濁すような形になると、晴斗さんが「さすがに突っ込みすぎ」と横から呆れたような声でマスターを再度制御する。
マスターは私と晴斗さんを交互に見て、「悪い悪い!」と謝った。
「前日じゃ、来ちゃったほうが損しないわな! キャンセル料も馬鹿にならないし」
「はい、そうですかね……」
ものすごく暗くて、面白くないネタを提供してしまったと後悔に苛まれる。
話の区切りがついたところで、晴斗さんは黙って席を立ちピアノへと向かっていった。
去っていくすらりとした上背のある後ろ姿を眺めていると、「はい、お待たせ」とマスターがカウンターの向こうから私の前にお皿を置いた。