身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました


「ロコモコね」

「あ、はい、ありがとうございます。わぁ、美味しそう」

 ソースのたっぷりかかったハンバーグに、黄身がとろりと流れ出てきそうな目玉焼きが載り、スライスしたトマトとパイナップル、アボカドの緑が美しい。

「いただきます」と手を合わせてフォークを取ったところで、店内にピアノの音色が流れ始めた。

 ピアノには詳しくないけれど、ジャズピアノというやつだと思われる弾き方だ。

 オシャレなメロディーに聞き入ってしまう。


「じゃあ、この旅行は傷心旅行ってところか」


 マスターの声に、ピアノを見ていた視線を戻す。


 傷心旅行……。

 彼氏と来るはずだった旅行にひとりで来ていると知れば、やっぱりそうにしか見えないのだろう。

 何も間違いはないのだけど……。


「結果、そうなっちゃいましたけど、でも、不思議なことに行くのを止めようって選択肢はなくて……この沖縄旅行、すごく楽しみにしてたんです。だから、ひとりだろうと来て良かったなって」


 キャンセルしようという選択肢がないまま、気付けば空を飛んでいた。

 頭の片隅で、やっぱり来なければよかったと後悔しないだろうかと、少しは考える自分もいた。

 だけど結果、総合的に考えて訪れて良かったと思っている。

< 33 / 238 >

この作品をシェア

pagetop