身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました
「ロコモコね」
「あ、はい、ありがとうございます。わぁ、美味しそう」
ソースのたっぷりかかったハンバーグに、黄身がとろりと流れ出てきそうな目玉焼きが載り、スライスしたトマトとパイナップル、アボカドの緑が美しい。
「いただきます」と手を合わせてフォークを取ったところで、店内にピアノの音色が流れ始めた。
ピアノには詳しくないけれど、ジャズピアノというやつだと思われる弾き方だ。
オシャレなメロディーに聞き入ってしまう。
「じゃあ、この旅行は傷心旅行ってところか」
マスターの声に、ピアノを見ていた視線を戻す。
傷心旅行……。
彼氏と来るはずだった旅行にひとりで来ていると知れば、やっぱりそうにしか見えないのだろう。
何も間違いはないのだけど……。
「結果、そうなっちゃいましたけど、でも、不思議なことに行くのを止めようって選択肢はなくて……この沖縄旅行、すごく楽しみにしてたんです。だから、ひとりだろうと来て良かったなって」
キャンセルしようという選択肢がないまま、気付けば空を飛んでいた。
頭の片隅で、やっぱり来なければよかったと後悔しないだろうかと、少しは考える自分もいた。
だけど結果、総合的に考えて訪れて良かったと思っている。