身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました


「おー、特等席だな」


 あとから来た晴斗さんが、私のとなりに腰を下ろす。

 両手を後ろへつき、長い脚を私と同じように放り出した。


「長かったのか、別れた男と」


 並んで座ってしばらくすると、唐突に晴斗さんが切り出す。

 突然そんなことを訊かれ、内心驚いて口ごもってしまった。


「答えたくなかったら、無理に話さなくていいんだけど」


 晴斗さんはこっちを見ることもなく、海の先のほうをじっと眺めている。


「……もうすぐ一年でした」


 世間的にその交際期間が長かったかはわからない。

 でも、私にとっては大切な一年だった。


「一年か……順調にそこまで付き合ってきて、急に別れなんてくるもんなんだな。それも、旅行の前日なんかに」

「それは……」

「明日から旅行だって時だったんだし、別れ話を一旦丸く収めて、旅行には行きそうなもんだけど」

「丸く収められない、状況だったんで……」


 あの現場に遭遇して、丸く収められる仏のような人はこの世にいるのだろうか?

 少なくとも未熟な私には無理なことだ。

 目の前にした光景が脳裏に蘇ってくる。

 衝撃的で、その瞬間は頭が真っ白になっていた。

 そして事態を呑み込むと、込み上げてきたのは悲しさと虚しさ。

 それを通り越すと怒りで真っ黒に感情が染まり上がった。

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