身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました


「最後の最後で災難だったな、まさかこんな降られるとは」

「ほんとですね」


 晴斗さんがフッと笑って、私もついクスッと笑ってしまう。

 頭にかぶせていたタオルが外され、湿った肩にかけられた。


「まぁ、思いがけず一緒にいる時間が追加されて、悪くなかったけど」


 え……?


 思いもしない晴斗さんの言葉と、私に向ける穏やかな微笑みに、ひと際大きく心臓が震える。


 もしかして、少しくらいは私と同じように思ってくれてたとか……?


「そ、それなら、私も同じです!」

「え?」

「もう少ししたら、お別れだなって……さっきから思ってたから」


 話の流れでつい思っていたことを口に出してしまって、ハッと我に返る。

 そんな言い方したら、別れるのが惜しいのがバレバレだ。


「あ、すみません、変なこと言って」


 慌ててぺこりと頭を下げ、ドアノブに手をかける。


「今日は一日、ありがとうございました。お世話になりました。お元気で――」

「待った」


 立ち去りかけた腕が掴まれる。

 驚いて振り向くと、引き留めた晴斗さんはじっと私の顔を見つめていた。

< 68 / 238 >

この作品をシェア

pagetop