身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました
後悔先に立たず Side Haruto
「おっ、晴斗ー、久しぶりじゃねえか」
日が傾きだした平日の夕刻。
客のまばらな店に足を踏み込むと、カウンターの向こうでグラスを磨くダイさんがすぐに俺の入店に気が付いた。
「どーも」
今更案内されることもなく、いつものカウンターを折れ曲がった奥の席に腰を落ち着かせた。
「何、忙しかったのか?」
「まぁ、少しだけ。東京のほうに一旦戻ったり飛び回ってた」
沖縄に出向して早くも二年。
はじめは物珍しい気分で来たこの地も、今や日常のなんでもない当たり前の場所へと変わってしまった。
慣れというのは何事においても人を駄目にするのではないかとしみじみ思ったりもしている。
「そうか。いいじゃねーか、忙しいほうが。あの子のこと考えなくて済むだろうし」
ダイさんはそう言うと、ふんっと鼻で笑う。
返す言葉も見つけられず、「いつもの」と注文をして話を流した。
あれからもう、二か月近く……。
彼女――佑杏が忽然と消えてから、もうそんなに月日が流れてしまったかと改めて思うと、また落ち着かない気持ちが込み上げた。