身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました


 変化していった自分の気持ちも、彼女と一線を越えてしまったことも、全てが想定外。

 ダイさんが無茶を言い出した時は、〝なんで俺が?〟と、そんな気持ちが正直強かった。

 でも結局、孤独なひとり旅みたいだし、俺自身に特に予定もなかったし、少し付き合うくらいならいいかという軽い気持ちで約束を交わした。

 そんな始まりだったのに、一緒の時間を過ごすうちに自然と佑杏に惹かれていく自分に出会った。

 急遽ひとり旅になってしまった沖縄には、付き合っていた男とくる予定だったと彼女は言った。

 それが何故、孤独な旅となってしまったのか。

 沖縄旅行の前日というタイミングで、彼氏の浮気現場に遭遇したという。

 その場で別れてきたのだと言った彼女の口調は怒りを前面に押し出していたけれど、その表情はどこか寂しそうで悲しそうに俺の目には映った。

『本当に、好きだったのに』

 佑杏はそうも口にした。

 苦しそうに涙を堪えるその姿は、俺の心を激しく揺さぶった。

 ただ漠然と、こんな風に想いを寄せられてみたいと、その時思ったのだ。

 同時に、相手の男が不憫でならなかった。

 こんなに一途に想ってくれる子を手放すなんて、大馬鹿者だと。

 そんな彼女の事情を知って、この旅行をいい思い出として振り返れるようにしてあげたいと切に思った。その手助けができれば、と……。

 そんな風に思った時には彼女に好意を持ち始めていたのだと、あの日の俺はまだよく気付いていなかった。

 それに気付いた時には彼女の行方はわからなくなっていて、俺はあの日すぐに部屋を飛び出した。

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