Pride one
線路沿いの緩やかな坂道を上り、コンビニエンスストアが目印の路地に入った先に、教育総合企業ブライトエデュケーションの本社ビルがある。
その五階、観葉植物を仕切り代わりに置いただけの、広すぎるワンフロアの一角にある総務部システム課で、成澤優月はキーボードを叩いていた。
向かいデスクで受話器を取り上げているのは、額がすっきりと出るほど短い髪、紺色のスーツが似合う好青年、坂巻慎吾だ。
「優月くん、外線二番取れるかな。ちょっと相手の名前が聞き取れなかったみたいなんだけど」
涼やかな声に反応して、優月はモニターから顔を上げた。それから、ちょっとした動きでもさらさらと揺れる栗色の髪を、何度か耳にかけ直す。
「まきちゃん、それって本当に俺あてなの?」
現在自社を離れて出向中の自分に、電話がかかってくるだろうか。優月はデスクに並んだモニターの脇から、呼びかけた声の主を覗き見た。
「それは間違いないみたい。優月くんの会社の人からじゃないかな。今日はスマホ持ってきてる?」
そう言って、坂巻は優しく目を細める。
坂巻は、現在進行中のシステム開発プロジェクトのクライアント側の人間にあたるが、プライベートでは優月の友人だ。
その五階、観葉植物を仕切り代わりに置いただけの、広すぎるワンフロアの一角にある総務部システム課で、成澤優月はキーボードを叩いていた。
向かいデスクで受話器を取り上げているのは、額がすっきりと出るほど短い髪、紺色のスーツが似合う好青年、坂巻慎吾だ。
「優月くん、外線二番取れるかな。ちょっと相手の名前が聞き取れなかったみたいなんだけど」
涼やかな声に反応して、優月はモニターから顔を上げた。それから、ちょっとした動きでもさらさらと揺れる栗色の髪を、何度か耳にかけ直す。
「まきちゃん、それって本当に俺あてなの?」
現在自社を離れて出向中の自分に、電話がかかってくるだろうか。優月はデスクに並んだモニターの脇から、呼びかけた声の主を覗き見た。
「それは間違いないみたい。優月くんの会社の人からじゃないかな。今日はスマホ持ってきてる?」
そう言って、坂巻は優しく目を細める。
坂巻は、現在進行中のシステム開発プロジェクトのクライアント側の人間にあたるが、プライベートでは優月の友人だ。
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